| 5.2.石英ガラス 水晶は極めて高い温度に耐えるので,高温の化学処理や燃焼管を作るのに有力な素材でしたが,水晶自体を熔かす高温技術がなく,実現が遅れました.ようやく1900年代に入って炭素電極が使われるようになって工業的に製造されるようになりました.石英板や石英管などいろいろな加工品がこの頃から市場に出回るようになったと思われます.プレーグル(F. Pregl)も初期のテキストには燃焼管用ガラスとしてSupremaxを使うと書いていますが,まもなく石英燃焼管を使用するよう改めています8).水晶を熔かして固まったものは石英ガラスで,もはや結晶の性質を失っていますが,軟化点が高いので燃焼管など高温作業の必要な分析化学にとって不可欠な材料です.また透明度が高いのでいろいろな光学部品に加工されています. 光学領域で広く使われる石英製品は吸光分析用セルですが,200 nmから800 nmの紫外可視分光光度計の角型セルや液体クロマトグラフ装置のフローセルとして用いられています.紫外透過は200 nm以下でもありますが,溶媒の吸収端が水で200 nm,エタノールでは215 nmですから使えるのはこのあたりが短波長限界です.角型セルの標準は光路長1 cmですが,製作精度は1/1000ほどを目標にしています.セルの組み立てはノウハウがあり,治具を用いて光路長を確保しながら溶接しますが,最近は溶接をせず,精密研磨して擦り合わせで組み立てる方法がとられるようになったと言うことです.光路長は0.5 cmから長いもので5 cmまでありますが,吸光度が光路長に比例するとは限りませんので,検量線はそれぞれのセルで作り直さなければなりません.セルの内面反射や光の分散などが長さによって違うからです. さて石英燃焼管は微量分析の根幹とも言うべき大切な材料です.充填物を詰め,高温に加熱して気化した有機試料と反応させる場ですから,石英燃焼管はただの容器ではなく,いろいろな熱化学反応を行う化学物質でもあります.化学的には純粋な二酸化ケイ素ですから,高温でアルカリやアルカリ土類元素と触れると,接触面から内部に浸透し,ケイ酸塩となります.初期の元素分析ではガス炉で温度が十分でなかったため,酸化銅にクロム酸鉛を混ぜて酸化力を高め,充填しました8).しかしクロムや鉛が石英に触れると表面から内部に浸透し,これもケイ酸塩となりますから,熱膨張係数が大きくなって加熱,冷却時ひび割れを生じます.また比較的融点の低いクロム酸鉛が石英管に融着して充填物の更新も出来なくなることがよくありました. 現在は電気炉で900℃前後が普通になっていますので,酸化銅,酸化コバルト,酸化タングステンなど高融点の充填物が使われ,石英管との反応は大分軽減されています.また充填物の前後に古くは銀線を丸めて押さえとしていましたが,当時はハロゲン除去の効果を期待していたものの,あまり有効でなく,むしろハロゲン銀となって融解して石英管に深く浸透し,折損の原因になっていました.現在はこれも石英ウールにかわり,随分石英管の寿命は延びています. 分析試料を燃焼したとき,試料に含まれる金属性元素や不揮発性元素が問題となるケースが増えています.ナトリウムを含む試料が割合に多いようですが,燃焼時飛び散ったナトリウムは石英管内面でケイ酸ナトリウムとなり,これはソーダガラスと同じですから膨張係数も大きく,燃焼管の内部と表面とでストレスがたまります.たびたびアルカリ金属を含む試料を分析しているとひび割れや最後には折損ということになりますが,そこまで行かなくともピンホールに似た信号トラブルが起こるかも知れません.アルカリ金属を含む分析試料は,試料ボート内で酸化タングステン30 mgを加え,タングステン酸塩として固定しなければなりません. 近年機能性物質を創製する目的であまりなじみのない元素を含む有機化合物が研究されています.周期律表を見ればいくらでも候補がありそうで,そういった試料を分析することもこれからあるあると思われます.そろそろ対処方法を考えなければなりません.限られた範囲ですが,特殊元素試料の分析法の記述9)と奥宮氏の一覧表10)が役にたちます. 金属元素を含まないはずの試料でも,実際には不純物としていろいろな金属元素が紛れ込んでいて,燃焼時石英管の内面に汚れとして飛散,付着します.一回の汚れは大した量ではありませんが,近ごろ一日の分析回数が増えているので蓄積量は無視できません.分析室の所属する事業所によって取り扱う試料中の無機不純物の種類や量は異なると思われますが,工業生産物や自然物では一度灰分を重量法で調べておく必要があります. 結果として燃焼管の汚れは仕方がないのですが,この汚れは燃焼管を抜けて検出器のほうに洩れる可能性があり,できれば燃焼管の中にとどめて置きたいものです.燃焼管の充填物の取替えが汚れ落としのチャンスですが,燃焼管を空にして尾部にゴムキャップをはめ,濃硝酸を少量入れて回転しながらガスバーナーで暖めると,少なくとも表面のアルカリ分はなくなります.汚れをもう少し落とそうとするとフッ化水素酸を二倍に薄め,内面を潤して常温でしばらく放置すると,燃焼管の内面が僅か溶解して汚れはほぼなくなります.ただしフッ素処理をしたものは内面が次第にすりガラスのように曇り,中が見えにくくなりますので,あまり繰り返しはしないほうがよいでしょう. |
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5.3 その他の石英製品 石英ウールはアスベストに代わって燃焼管や吸収管の充填物の押さえによく利用されています2−p190).高温に耐え,かつ弾力性があるので充填層が緩まない特長があります.通気性がよく,ガス流量の大きい装置にも向いています.溶融した石英をノズルから出る高圧空気で吹き飛ばしウール状にしたものですが,工業品ですから,希硝酸で洗って乾燥しガラス瓶に保存します.
光の透過性のよいことと高温に耐える特性から,各種ランプの発光管に石英が使われています2−p121) .ハロゲンランプや水銀ランプは強力な照明の光源として広場や街灯に多数用いられていますいが,高出力のも のでは発光管が1000℃近い温度になるものがあるようです.またキセノンランプなど点燈中20~30気圧になることもあり,作動中の耐圧性も石英の長所です2-p121).
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